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オンライン小説ブログ~青春文芸部~

「サークル執筆作品」
『落下流水』


2

2011.04.14  *Edit 

 次の日、僕は欠伸をしながらテレビをつける。今日は朝から胡散臭い話題で盛り上がっていた。
 どうやら昨日に、四番坂付近でUFOが目撃されたとのこと。黄昏町は不思議な事が起こる場所、と言うがまさかUFOまで守備範囲らしい。このままでは世の中の不思議がこの町に集中してしまう日が訪れるかもしれない。いや、このまにそこまで許容できるスペースがあればいいのだが。
 見ている内にご飯が運ばれて、頂きます。食べ終えると、僕は早速準備をした。
「おおう、今日もどこかに行くのか」
「うん!」
 父さんが玄関で出かける準備をしていると、後ろから声を掛けてきた。正直、まだおばあちゃんの死んだ事実から立ち直れ切れていない父さん目元にはクマが出来ている。そして当然、僕だって、おばあちゃんのことは忘れていない。すっと忘れない。
 でもだからこそ、こうやって日常を過ごすことだって大事なことだと僕は思ってる。そうじゃないと天国のおばあちゃんが安心できないと思うから。
 だから僕だけでも明るく過ごしてうやる! 今はそう思ってる。今まで大好きだったおばあちゃんに恩返しできるとしたらこういう事だけだと思うからだ。
 感傷に浸って少しだけ気恥しくなった。こういうのはキャラじゃないと言う事くらい、理解しているつもりだ。
「気をつけて行って来いよ」
 バシンと背中を叩かれて催促された。分かってるよと苦笑いしながら外に出る。今は父さんのあの顔を見るのが少しだけ辛い。
「行ってきます!」
 あの場所へと走り出した。
 当然行くところは決まっている。あの畦道である。セミが豪快に鳴いている。いつもならば嫌になるようなそんな出合唱も、この素晴らしき鼓動の前には消えてなくなってしまうのだ。
走って走ってやっとの思いでその場に着く。
 今日もまだいないらしい。いや、来るつもりがないのかもしれないが。来なかったらどうしようと僕は思わず考えた。先ほどは会えることを前提に張り切っていたので、もしもそれが崩されれば僕の落ち込みようは半端ないことは目に見えていた。
「だ~れ~だっ」
「うわ!」
 押しつけられるあの部分に僕はまず悲鳴を上げてしまった。本当ならば、耳元にかかる吐息と女の子の手に驚くべきなんだろうけど、なんとも僕の体は正直らしい。正直、すぐにこの拘束解かれるのは惜しい。故に僕は分からないふりをして何度も唸ってみた。このままもう少しこの感触を楽しんでおきたいと思ったからだ。変態か、というツッコミは無しの方向で、と誰に言っているのか虚空に心の中から発信。返事は返ってこない。
「わかんないなぁ~」
 シメシメと思ってみる。どうやら夕菜さんは僕の意図に全く気が付いていないらしい。先ほどよりももっと体を密着させてくれた。
「ん! なら仕方ないよ!」
 そう言うと夕菜さんは離れる。あ、せっかくのマシュマロが、離れて行く。
 マシュマロが離れると。少し距離が空いたところで夕菜さんは笑顔になった。
「永江夕菜です。よろしく~」
「あぁ、知ってますけどね」
「ひどくない?」
 今日も夕菜さんは綺麗だった。いつものようなスタイルで来ているからである。それ以外に言いようがない。
 しかし、
「夕菜さん、今日も制服なんですね~」
「え? これかぁ」
 夕菜さんの天使の笑顔が炸裂する。僕が質問に対して答えを聞くと、なんとも面白い回答が返ってきた。
「だってさ! 制服は女の勝負服だもの」
 と言う事はいつも勝負をしていると言う事だ。まだ会って三日目だけれど、現時点で、そう言う考えに僕は至った。夕菜さんは現代に舞い降りた女子高生ソルジャーなのだろう、多分嘘。
 そういう妄想は置いておいて、今日もしっかりと確認した。今日も夕菜さんは綺麗だと言う事だ。青い空をバックに微笑む彼女を見て僕は思う。たった三日だ。この日を含めて三日なんだからまだ二日とちょいと言う事になる。それだけの期間で、夕菜さんとの距離がすごく近くなった気がしている。あまり……いや、大分女性経験のない僕としては、こんなに美人と楽しく話しているこの現状がまず、夢のようだった。
 夕菜さんが歩く。僕もそれについて行く。今日はどこへ行こうかという取り決めはしていなかった。なんせ、僕らは今日も“偶然”であったのだから。ある程度無理やりな運命というやり取りも、案外好きな僕は流れに身を任せた。
 というか、運命だとか言ってるのは僕だけかもしれないが、夕菜さんもこの気持ちを共有していて欲しいと思うのはわがままだろうか。
 今日も畦道は蒸していた。容赦なく照りつける太陽光が地を焼く。蒸発した植物たちの水分や、泥から放出される蒸気に体全体が蒸し暑いと叫ぶ。その暑さなんかは夕菜さんを見つめることで抑え込む。プラシーボ効果というやつだ。多分、使い方を間違っている。
 さっきから夕菜さんは僕の前を歩き、一人でにししと笑っている。もしかしたら、暑さで精神が参っているのだろうか……いや、それはないか。
 木にとりつくセミたちが讃美歌を歌う。というのはあくまでフィルターを通した歌声だった。何でだろう。僕は夕菜さんと過ごしているこの時間だけでそれだけうかれることが出来るのだ。もしかしたら僕くらい、安上がりな人間はいないのかもしれない。
 いや、恋する人間は誰だってそうなのだ。
 あれ、僕は恋をしているのか?
 そんな自問自答が頭の中で繰り広げられていた。
 しかし案外答えは決まっているものなんだ。こういう自問自答さえも、出来レースに違いない。僕は明らかに恋をしている。一目ぼれという恋をしているんだから。でなければ、夕菜さんを見るだけでこんなにも心臓が高ぶるのも、愛おしいと思うのも、抱きしめたいと思ってしまう衝動も説明が出来ないではないか。
 僕は好きなのだ。
 愛しているのだ。
 こんなにも、こんなにも滾る様な想いは実は初めての経験で。中途半端にチャラい僕だから、余計にそう思うのかもしれない。どこか世界を傍観しているようなそんな感触がいつも僕を占めている八割の感情だった。それにひびが入ったのは、夕菜さんを見てからだ。その気持ちに嘘はないし、真剣だった。
 無邪気に笑う夕菜さんを見て想う。
 少しの期間だけれど、この想いを伝えるべきだろうか、それとも伝えない方がいいのだろうかと。こんなにも想うのはきっと、すぐにでも気持ちを伝えろと体が命令しているからに決まっている。しかし、それを抑え込む自制心がある。理性とは時に考えものだと思った。
 う~んと考え込みながら歩いていると、目の前の影が立ち止まっていた。顔を挙げると、目と鼻の先に夕菜さんの顔があった。
「うわお!」
「わぁお」
 僕の反応が面白かったのだろうか、夕菜さんも真似をして、そしてうふふと笑った。
「なんだぁ、脅かさないでくださいよ」
「脅かしてなんかいないわ。ただ、創人君が私の相手してくれないから……」
 少し意地悪したくなったのと言いながら人さし指を僕の唇に重ねた。
「ちゃんと私の話聞いてくれないと嫌だよ?」
 顔が一瞬で赤くなるのが分かる。こんなにも分かりやすく、自分の意見が如何に正しいのかと思い知らされるとは思っていなかった。
「……はい」
 赤面する顔面を隠そうともしないで、上下に頭を振ると、満足げに夕菜さんは前に向きなおった。また歩き始める。
 歩いて歩いて歩く。
 ひたすらその繰り返す。
 ザリザリザリ……足が小石をふみならした。
 BGMは自然の音。木々が奏でる多重奏やセミがハレルヤを歌って僕のデートを盛り上げてくれている、ような気がした。
 自然と会話はなかった。しかし、妙に心地よいのは何でだろう。歩いている内に思い出す。そういえば、僕は今日、言いたいことがあったのだと。
「あの」
 心地よい静寂を自ら破る。夕菜さんがうしろを向いた。
「これからちょっと来てくれませんか?」
 ここは丁度町と町の境目で、僕の目的にはちょうどいいと思ったのだ。
「え……いいけど」
 答えると、今まで僕の少し前を歩いていた夕菜さんは僕の隣に移動した。
「じゃあ、エスコートでもお願いしようかしら」
 ちょっと声音を作って話すその仕草はどこか少女的で可愛らしい。そんなことでにやけそうな顔面の筋肉にキチンと緊張するように命令を送ったつもりでしゃきっとする。そして今度は僕が先頭になり歩き始める。
 しばらく歩いて行くと、神社がある。そこは町と町とを繋ぐ神社だ。階段を上り、その向かい側の階段を下りれば隣町まで行ける感じになっている。まぁ隣は隣で栄えているわけはなくて、一番はやはり、我らが黄昏町の中でも上黄昏町に違いない。
 タンタンタンとこれからのことを考えると少しだけ歩幅が大きくなってスキップしているようになった。夕菜さんはそんな僕が面白いのか終始笑いそうな顔をしていた。やがて境内に入る。向こう側に隣町へと繋ぐ階段が……
「あの、まさか」
 行き成り夕菜さんが足をとめた。振り返ると、俯いている夕菜さんが立っている。長い髪のせいで表情までは読み取れないが、足を見ると震えていた。
「この先に用事があるの?」
「そうですけど……」
 言うと、夕菜さんはしゃがみこんでしまった。
 急いでその場に駆け寄ると肩を抱く。そのまま寄りかかってきた。何があったのかは言わなかった。何があるのかも聞かなかった。何より、今はこのまま何も言わないでいるのが正解だと思ったのだ。
 力なさげに項垂れる。境内はこの暑さのだと言うのに嫌にひんやりと周りを冷やしていた。それがこの神社を覆っている竹が原因なのかは分からない。しかし、独特の雰囲気がある。この現実世界から切り離されたような、黄泉の国、異界、そう言う物を思わず彷彿とさせた。
 ピクリと夕菜さんが動いた。いつの間にか震えも大分治まっている。そして口を開いた。
「ごめんね」
「いえ」
「だけどごめん」
 必要に謝る夕菜さんに疑問を抱いたが、しょうがない。いえいえとなだめてから、続きを待った。
「これ以上先には進みたくない。ごめんね」
「あ、はい」
 これ以上先には?
 どういう事だろう。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。考えれば考えるほど疑問の渦に飲み込まれそうになった。そうなりそうになった感情を抑え込んで笑顔を作った。こういうときは笑顔が一番。何より相手を安心させられるのは笑顔なんだと相場は決まっている。それに、まだスポットはあるし。人は多くなるんだけど。
「じゃあ、ここじゃなくてもいいんですよ」
 疑問符を浮かべて夕菜さんは僕を見た。
 今日は何よりあれがやる日。本当にいいタイミングで来たものだと思う。まるで僕たちのために行われるようなものだろうと思わないか?
「今日は夜、空いてますかね?」
「ええ、大丈夫よ」
 良かった、ここで断られたら僕の当初の作戦が全て破綻するところだった。しかし、そこはクリア。だからこの言葉も言える。
「今日、花火大会があるんですよ」
 だから一緒に行きませんか、そう誘うと先ほどまでの暗い顔が段々と笑顔になっていく。冬が来て、また春が来て、新芽が芽吹く様に、彼女の顔に笑顔が咲いた。僕は思った。この笑顔を見るために、僕はいるんだろうなと。この笑顔を、ぬくもりをずっと感じていたいのだと。
「ええ、よろこんで!」
「よかった」
 僕は立ち上がる。夕菜さんに手を差し伸べた。立ち上がると元来た場所を引き返す。お祭りまではまだ時間がある。それまでに何をしていようかと、そう考えていたのだ。
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