オンライン小説ブログ~青春文芸部~

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「サークル執筆作品」
『落下流水』


2

2011.04.14  *Edit 

 おばあちゃんが送りだされる時が来た。最後に顔を見て、そしてその穏やかな顔に安堵する。僕は昨夜に言いたいことを言ったせいか、心の中は晴れ晴れとしていた。葬式は逃げ出してしまったけれど、ここは逃げ出さない。きちんとおばあちゃんが旅立っていくのを送りだそうと僕は手を合わせる。
 やがて日が棺桶を包み、おばあちゃんを囲っていた肉体と言う括りを抜けだして自由を手に入れた魂は煙と共に空に上がっていくのだろう。空の上には何があるのだろうか。天国があるのだろうか。それとも何もないのだろうか。
 もしかしたら星になってしまうのかもしれない。だって、この世には名前もない星は山の上に行けばいくらでも見えてしまうのだから。
 灰色の煙がモクモクと昇る。空に昇っていく。段々と上に上がった煙は霧散して、空の欠片になって消えていった。僕はそれをぼーっと見上げていた。色々な感謝や色々な謝罪を思い浮かべながら。
 やがて火葬は終わる。この後に家に帰ってちょっとした食事会を身内でやるらしかった。それに出るのもいいのだが、僕はついあの場所のことを思い浮かべてしまう。
「ねぇ、父さん」
「なんだ?」
 車に乗り込もうとした父さんを僕は呼びとめた。軽く手が汗で湿っている。昨日殴られた記憶がよみがえる。
「あのさ、行きたいところがあるんだ。だから、ここから歩いて帰るよ」
「ここからか?」
 幸い、ここは家からそう遠くはない。歩けば、一時間とちょっとあれば帰れる距離にはある。そしてその途中にあのあぜ道があるはずだ。
 父さんはしばらく悩んだ後に、いつものように笑顔を向けた。
「そうか。別にかまわないぞ。行って来い。先に帰ってるからな」
「ありがとう」
 父さんと母さんは車に乗ると、発進した。たった一つ「帰っても寿司は残ってないからな」と言い残して。僕はそれをあははと笑いながら聞いて、そして、
「おしっ」
 意気込むと歩き出した。今日はあの場所にいるのだろうか。


 長々と……と言うわけでもないが、そこそこに長いあぜ道を僕は歩いていた。相変わらずセミは大合唱で、僕の黒い鎧のせいで暑さはピークだった。黒いカイロのような喪服の上を脱ぐと肩に担ぐ。こんなの着ていては歩いてなどいられない。
 緑が多いと一瞬だけ涼しいのかなと思ったりする。けど、それは案外間違いと言うものだった。それは水分を発し、暑さが蒸発させる。つまりは、むしむしとする。もう悪循環ではないか。そして暑くなればなるほど上昇気流となってゲリラ豪雨などと言うものになるのだった。後半のアスファルトなどがたくさんある都会に多い傾向にらしいのだが、しかし、こういう田舎だって例外ではないはずだ。
 やがてあの場所が見えてくる。この前彼女と会ったあの場所だ。
 僕は心なしか早足でその場所に赴き、そして落胆する。そこにはただの草しか生えていなくて、そこには誰もないのだった。正確に言うならば、虫くらいならば存在するだろうが、そんな物を僕は求めてはいない。
 もうここまで来てしまったのだ。諦めてそこに腰を下ろすと空を仰いだ。
 馬鹿みたいに青い空だった。青くて白くて広くて。入道雲が大きすぎてやたらと近くに感じてしまう。僕は寝ころんだ。影のないその場所はとても暑い。しかし、直に生を感じられる、そう言う気がした。
 なぜに地球はここまで青いのか。そしてどんどん崩壊しているのか。僕には珍しく殊勝なことを考えてみる。それは一部の人間が公害な物質を平気で空に垂れ流しいているからだと当たり前の結論にたどり着いた。
「もうやるせねえ」
 そう一言つぶやいてみる。
 目をつむればそこにはあの笑顔があった。一瞬だけ、そう言うのは大げさなのかもあしれない。しかし、酷く綺麗に見えたのだ。綺麗過ぎて、そこにはまるで生が感じられなかった。人外の美しさをと言うのだろうか。昔読んだ本に、そう言う美貌で人を虜にして、その生気を奪う悪魔だか妖怪だかいた気がする。当時は、何そんなものでしんでいるのだろう。情けない、くらいな感情しか湧いてこなかったが、いかんせん、そう言う気持ちもわかってしまう。
 あれほどの美人ならばあるいは魂すら差しだしてしまうのではないだろうか。
 そんなことを思っていると一瞬もやもやとした心境の後に込み上げてくる衝動が僕を襲う。
「ふぁあ」
 大げさに言ってみたがただの欠伸だった。眠気が手足を支配し始めているのに今さら気がついたのだった。意識に靄が掛ったようになっている。まるで、ゆりかごと言うまでの快適さ加減にには程遠いけれど暑いとなぜか眠くなる僕であった。まだ時間はあるだろうし少し寝ておこうと思う。
 なぜここで寝なければ行かないのか分からなかった。聞かれれば眠くて動けないからだと答えるに違いないのだろう。
 遠ざかる意識の中で耳にエコーするセミの声を聞きながら。僕はゆっくりと意識を沈めた。


 時間はどれ程経っているのだろう。僕はしばらくの間眠っていたらしい。日差しが眩しいだろうから目を閉じて、今の状態を確認する。馬鹿みたいに汗が垂れ流されて気持ち悪い。びっしょりと濡れたワイシャツが体にひっついている感覚。
 そろそろ帰ろうかな、不意に思った。もしかしたらさっき目を閉じてからほんの数分しか経ってないかもしれないけど。もうそろそろ体が限界だ。
 むしろ、ここにいれば会えるなんて誰が言ったのだと言うのだろう。誰も言っていない。ただ僕が勝手に言ってるだけだ。ならば一般常識として考えるのならば、ここはただ僕が勝手に思い込んでいるという可能性の方が高いのだろう。僕の直感と言うか予感はこんなにも頼りないものなのだ。
 もう会えないかもしれない彼女を思う。一度だけ名前を聞かせてもらった。それは夕菜という名前だった。僕はその名前すらも美しいと感じてしまって。その名前は何に由来するのだろうか。きっと美しいのだろうねという想いを胸に抱いている。
 そんな時だった。まぶたの裏側に黒が陰る。
 太陽の光を遮られたことが分かった僕はまぶたを開けてみた。そしてそこは桃源郷だった。なぜならば……、
「えっ、白?」
「きゃあ!」
 バッと視界を遮っていたカーテンのようなものが、あれ、はたしてそれはスカートではないか。プリーツスカートが翻り、そして改めて太陽の光を僕に届けようとする。とりあえず思考停止。今の状況を察するに。
 一つの回答が導き出される。それは単純明快、得をしたような幸福を感じざるを得ない。男ならばそうなはず。今現在僕にはラッキースケベの神様が君臨しているに違いない。
「白いパ……むぐっ」
 言い終えるのが先か塞がれるのが先か、柔らかい手が僕の口を塞ぐとその先は口に出来ない。なんだかとってもひんやりとした手が火照った体を少しだけ冷やしてくれた。黒髪が僕の顔にかかって女の人の香りが僕を占拠する。
 頭がぼーっとするほどの鮮烈な女性を感じさせる香り、それはまるで、あの人のようだった。否、僕はいい加減息が苦しくなってギブアップすると相手を見る。相手は間違えることなく、永江夕菜その人だった。
 もちろん、何か言うべきなんだろう。彼女が話してくれたのに、僕は言葉を発しることが出来ないでいる。それは単に言葉が出ないだけなのだ。綺麗過ぎるものを目の当たりにすると、言葉すらも出てこない、そんな人間にとっての原始的な感情が僕の上から降り注いでいたのだから。
 最初こそ、警戒していた彼女は僕の呆けた顔を見ると笑いだす。挙句の果てに僕の頬で好き勝手に遊んでいた。
「なにすんだい」
 僕が無表情に言い返すと、やっと喋ったと彼女は言い、笑顔で挨拶を返す。
「おはよう。あれ、こんにちは、かな? えと、菱山創人君!」
 向日葵のような笑顔を見せる人だった。そして僕の名前を覚えていたことに驚きを見せていた。だって、僕なんていう生き物は通行人Aくらいなポジションだと思うだろう。普通は。
「覚えていたんですね、僕の名前」
「当り前じゃない。昨日ことだよ? それよりもホラ! あいさつされたらなんていうの?」
 促すようにホレホレと彼女は笑った。一度咳払いをして僕は言う。
「こんにちは、えと、永江夕菜さん」
「他人行儀だねぇ、友達には夕菜って呼んでほしいって言ったのに」
「でも、そっちもフルネームだったし、年上っぽいし、昨日会ったばっかだし」
「気にしないでもいいのに」
 彼女は笑う。悪戯でも思いついたような笑顔だった。
「じゃあ、こんにちは、創人君」
 創人君、なんて言葉が響くんだろう。自分の名前が自分の名前じゃないみたいだった。こういう人に言われる創人君は多分別次元の人間なのだと思わず思ってしまう。それほど、自分の名前が麻薬になりかねないほど、彼女が発する“創人君”は甘い響きを孕んでいて。ついこう言いたくなる。
「こんにちは、夕菜さん」
「はい、こんにちは!」
 ああ、もう堂々と呼ぼうじゃないか。僕は思った。
 こんなに暑くて、こんなに辺鄙なところなのに、僕みたいなのに挨拶をしてくれてありとう! 夕菜さん!
 セミが鳴く。草が発するムシムシが体を覆う。ジャンボタニシはいないけど、アリが足元を歩いていた。緑が生い茂り、草の葉を擦り合わせて大合唱する。ただ億劫なだけの景色は次の瞬間にはワンダーランドに変貌していた。


 出会って何をするのかと聞かれれば、実を言うと何もしていない。相も変わらず僕はその場に座り込み、そして夕菜さんも僕の隣に腰かけていた。
「どうしてここに来たの?」
 とりあえず聞いてみることにした。何しろ、こんなところには用が無ければ絶対に来るような所では無いのだから。ここにいると言う事が僕に会いに来てくれたのではないかと言う自惚れを加速させる。
「ん~、創人君は何で来たの?」
「ここに来れば夕菜さんに会えると思って」
 正直に言う事にした。隠してもいいことはない。しかし包み隠さず言ってしまえば案外いい言葉も帰ってくるもので。若干赤面しながらの僕の言葉を受けて夕菜さんは笑う。
「じゃあ、私も同じ。ここに来れば創人君に会えると思ってた」
「それって」
「私、あなたに興味が湧いたのよ」
 天使の笑顔だった。今までの罪が浄化されそうな喜色を見せる夕菜さんに今にも昇天してしまいそうだった。僕に興味があるらしい。あんなに美人が。と言う事は何やら期待してもいいのだろうか。
 いや、ここは引かないで押し進むところだ。
 ここは暑い。そして何もない。隣には見目麗しゅう夕菜さんの姿が。太陽にさんさんと照らされる姿すら女神が後光と放っているように見えなくもない。その眩しさは三倍増しで僕の目を焼きつくそうと奔走しているみたいだった。
「じゃあ……」
 ここで一旦言葉を止める。僕はこの先に何をやりたいのだろうと思って思わず頭を振った。少なくとも一瞬だけ邪な感情がうごめいたからだ。
 うむ。こういう人気のないところにいるのはあまり得策ではない。よくないことをあれやこれやと考えてしまう。
「町の方に行きません?」
「いいよ」
 にこりと微笑を頂いた僕は立ち上がると手をさしのばす。
「紳士なのね」
「いえいえ、当然のことです」
 夕菜さんの柔らかい手を僕の手が包み込む。この暑さだと言うのにとても冷たかった。ひんやりとした感触が心地よく手のひらに残る。
 立ち上がらせると早速僕は駅の方に歩いて行った。この流れで行くのはもちろん、上黄昏町だろう……。

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