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「サークル執筆作品」
『縁堂へようこそ~真子の章~』


2

2011.04.12  *Edit 

***


 雨が冷たいのだと。少女は思った。雨雲のせいでいつもよりも暗いと感じる道路を一人で歩く。学校では授業が終わっている時間ゆえにサークルなどから帰る人しか見当たらなかった。そういう人たちにとって、傘も差さずにぼうっと歩いている少女はさぞ奇妙に映ることだろう。
 何を考えて歩いているのかと聞かれればそれには答えかねるというのが実際の感情だ。少女はいつの間にかこうなってしまった。
 自分でも考えがつかなかった。何やら数日の間家出をしていたらしい。それとも拉致監禁か。つい先日、目を覚まして、そこは病院だった。親や警察が連日のように押し寄せ、何があったか聞いてきた。もちろん、少女は答える術を知らない。それは単に少女がずっと眠っていて、何も知らないからだということだ。
 とても暗いところにいた気がする。ぷかぷかと浮かんでいるような、そんな浮遊感を感じながらいつまでも目を閉じていた気がした。別に眠かったわけでもないのに、目が開けられなくて、でも何も考えることもできなくて、数秒だけ目を閉じて開けるだけ。そんな気持ちで目を開けたら病院だったのだ。
 すぐに退院をすることはできた。体には外傷はなくて、特に問題はないとされたからだ。精神面ではどうかということになり、それは一時的な記憶の混濁ということで片付けられる。少女は以前、自転車で交通事故に遭ったことがあり、強い衝撃を受けたせいかその当時の記憶がすっぽりと抜けてしまっているという経験をしたことがあったのだ。それも手伝ってか、両親は特に疑うこともなく、もしも、何か変化があったときには病院に駆けつけるということにして、家に帰ることになった。それから日が経ち今に至る。
 少女は外傷こそないものの、意味もなく、こうやって夜に徘徊を続けている。もう少ししたら学校にも行けるらしい。だからだろうか、今日は行き先が学校になっていたのは。
 こういうときに、簡単に家を出てしまって、両親が心配するかも知れないという危惧はあったが、最近は連日の徹夜で、基本的には子供に無関心なことを知っているのでそこまで心配することもないだろう。病院を退院した理由が、金銭面であるということも当に少女は理解している。
 やがて、目の前に見知っている人間を見た。相手は驚きに目を見開き、少女に駆け寄る。
「ちょっと、大丈夫なの!?」
 友達だった。しばらくの間、黙って、目の前から消えていたことに少し罪悪感を抱く。
「うん、ごめんね。学校いけてなくてさ」
「別にそんなことは大丈夫。何か理由があったんでしょう? それよりも、傘も差さないでさ、こんなところにいるなんて……」
「あ、傘忘れちゃって。体が冷えるわ。雨って冷たいよね」
「何言ってるのよ、当たり前じゃない。ほら、とりあえず、私の傘の中に入って」
 少女の友達は本当にいい人間みたいだった。友達はしばらく、少女を抱えてあたりを見渡す。そして、すぐ近くにある学校を見つめた。
「部室に行こうか。私のサークル、部室あるから。そこで体を乾かそう」
「悪いよ、すぐに帰れるから」
「心配で見てられないって。ほら、久しぶりに話したいし。あったかいコーヒーも入れられるしね」
 にこりと笑った。あまりの人の良さに、少女は思わず泣きそうになってしまう。ああ、人間って温かい。人のぬくもりとは、何物にも変えがたい、素晴らしいものだと少女は気づいた。
「うん、そうする」
 二人はサークル棟に歩を進めた。
 部室は暖かかった。内装は質素で、ロッカーと、長机、椅子に本棚、そしてポットとカップ類。本当はだめなのだろうが、吸う人がいるのだろう、吸殻入れも机の上においてあった。少女はタオルを貸してもらって、椅子に腰を下ろした。
 目の前に湯気が上がるコーヒーが置かれる。手に取ると、少し熱いくらいだった。でも、雨に濡れた体にはこれぐらいがちょうどいい。一口すすると、内臓に暖かさがしみていくようだった。
「おいし」
 少女は笑う。いつ振りだろう。そんなに長く学校に来ていなかったわけでもないのに、久しく笑っていない気がした。友達も「よかった」とやさしく笑った。
 それからしばらくは、昔の話や友達の近況などで盛り上がる。本当に楽しい時間。本当に安らげる時間。少女にはこういう時間こそ必要だったのだと心から思う。友達は言った。
「ああ、笑ったよ。やっぱりあんたがいるのといないのと全然違う。噂話も聞けないしさ」
「うわさ、ばなし?」
「そうよぉ、あんたといえば、都市伝説やら噂話やらそういうのが専門じゃないの~」
 少女には疑問符が浮かぶ。私は、そういう類の話が好きだったらしいということを覚えていなかった。そして、その単語を聞いて、胸の奥で疼く何かを感じた。これが、好きと言うことなのだろうか。違うのだろうか。
「そうなんだ、そうだなぁ」
 ドクン。ドクンと心臓が高鳴る。段々と体の感覚が侵されていくのを感じた。これがいかなる感情か、感情ですらないのかも少女には理解できない。
 口が勝手に動く。手が身振りを勝手にやって見せた。これは誰の体だろう。これは誰の脳みそなんだろう。当たり前のことが分からなくなって、少女の視界はボヤに包まれたように曖昧に思える。
「神隠しの話って知ってるかな?」
「あ、最近有名なやつね、タイムリーじゃないの」
「ふふ、あれにはね、続きがあるの。そして、現場を知っている。一緒に行ってみない?」
 馬鹿な話だ。何を言っているんだろうと混乱しながらも、その感情を表現することは叶わなかった。まるで、自分じゃないように体が、口が動いて、ヒクヒクと口元が緩みそうになるのを感じる。この体が歓喜している、というのは理解できても、それは少女ではない。
 なぜ気づいてくれないのだろう。友達は目の前で、少女ではない少女の話を無我夢中で聞いている。そして、腰を上げた。少女ではない少女が一緒に行こうと口走っていたからだ。
 外に出た。今度は傘も差している。友達が前を歩き、少女が口で道を説明して良く。しばらく歩いていくと、人気のないくらい場所に出た。さすがに緊張しているのか、友達の怖いね、という言葉を聞いた。そうだね、と少女でない少女が同意する。
「ここ、ここなんだよ」
 やがてたどり着いたそこで少女は言った。
「え、どこどこ?」
「だから、あそこを見て……」
 友達の肩越しにある一点を指差して、もう片方の手に持っていた傘を離した。そして、先ほど部室で隠し持っていた吸殻入れをおもむろに持つ。
もう駄目だと思った。少女は時折こうなる。こうなるともう止まらない。この体が止まるまでは止まらない。止まらない止まれない嫌だ私は誰……。
 トマレ。トマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレトマレ。モウヤメテクレ。
「そうそう、あそこよあそこ」
 ヒクヒクと口元が緩む。少女でない少女がそう先導し、そして、
「……ヒトリメ」
「え?」
 呟いて、友達が振り向こうとする瞬間に、思い切り吸殻入れを振り下ろした。
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