オンライン小説ブログ~青春文芸部~

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「長編『文芸部ウォーズ』」
第一章 まずは出会いに感謝を。


11

2010.04.02  *Edit 

11

 あっという間だった、そういう感慨しか持てない。
 最初は秀治から始まった。それから茜、文香とその他のメンバーにバトンは渡されていったが、駄目だ。追いついていない。文化部としてはかなり好健闘だと思うがしかし、西文芸と差がつきすぎている。目を通る人影はいつも、西文芸部のメンバーが最初。まだ、大丈夫。巻き返せるが、これ以上引き離されるようなら……、その時は、負けを認めざるを得ないだろう。
「くそっ。遅い」
 隼人は握り拳を作って呟いた。すぐ後ろで出番を終えた茜が済まなそうに、隼人に謝ってきた。
「ごめんね、お義兄ちゃん。私、足が遅くて」
「ううん。茜が悪いわけじゃない。ごめんな、変な事言って」
 そして、ランナーは最後の一人となり、残すところ隼人だけとなった。
 すーっと深く、息を吸い込む。溜め込んだ空気を吐き出す。おし、緊張は幾ばくは解けた気がする。
 隼人はラインの手前に立った。待合スペースを見ると、茜とその他、東のメンバーが手を振って応援をしてくれている。しかし、隼人は心の中で謝った。
(ごめんな、俺は部活のためじゃない、自分の勝負をするだけだから)
 その時、隣に、美鈴が立った。
「いよいよね」
「そうだな」
 二人とも、じーっとしばらく見詰め合う。お互い、自分達の勝負なんだと再自覚するために。そして、絶対に負けないぞという気力をぶつけるために。
 見詰め合うこと数十秒。たいした時間ではないが、かなりの時間を労して見詰め合っていた気がしていた。やがて、後方から西の部員がタスキに手を掛けて走ってきた。
「それじゃあ、お先に、ね」
 美鈴は走り出した。
 その間も他の部活の人間が、一人、二人と隼人を抜かす。焦燥感に煽られるが、勤めて冷静を保った。このままのペースではいけない。こう言った勝負事は、雰囲気に呑まれた者が負けるのだから。
「大丈夫。まだ、大丈夫」
 独り言のような自己暗示のようなことを呟いていると、いよいよ、東の部員が必死の形相で走ってきていた。ああ、結構可愛い顔してるのに、台無しじゃないか。
「せんぱ~い、すみません。一人しか、抜けませんでした」
 後輩は申し訳なさそうに、しかし、手は緩めずに、タスキを手渡す。
「ああ、大丈夫だよ。お前の努力は無駄にはさせないからな」
 そして、タスキを手に持った。

 いやに冷静な自分にまずは驚いた。最初はコンマ何秒かで隼人の前を行く生徒。何も考える事は無い。普通に抜かせてしまう。
 一人抜かした。
 次は、二人目。いや、あれは二人目と三人目か。隼人の前方では二つの部活が、小さい世界で争いあっている。正直愚かしい。あんなに狭い視界でしか勝負をしてないから、
(インコースがガラ空きだ)
 隼人は身を屈めると、一気にわずかに空いたインコースを走り抜けた。抜かされて初めて気付いたようで、驚いた後に、二つの部活はその反動で転んでしまった。
 さらに前にはいくつかの部活が走っている。その間をスイスイと隼人は抜かした。三個くらいの部活を抜かしたところで、一周目が終了した。アンカーは二周走るのが決まりとなっている。つまり、これがラストスパートというわけだ。

 ランナーズハイとはこういうことを言うのか。
 それからは何も考えていなかった。頭も何もかも真っ白で、何もかもを受け入れられる頭になって、隼人はとにかく走っていた。
 疲れは感じない。
 どうしようもないくらいに高鳴る鼓動に、たぎる血。とにかく走りたかった。何も、もう何も敵なんか居ないと感じてしまうほどに。
 しばらく走ると、前方に美鈴の姿が見えた。普段ならば、何かしらの感慨を持てただろうが、いかんせん、今の隼人は最初からスパートを掛けすぎた。脳が完璧に麻痺しているに違いない。何も考えずに、美鈴の隣を走りぬけた。
 後は、一つだけだ。
 もう大丈夫。あんなの敵でもなんでもない。今の俺は、誰よりも早いんだから。
 隼人は最後の一つも抜かした。
 後はもう、ゴールテープを切るだけだった……。

 ピピー。
 ゴールしたことを確認した笛が鳴る。そのまま係りの人に、トラックの外に誘導されて、そこまで歩いてい初めて疲れと言うものを感じた。
 今まで無理してゴリ押ししていたものが一気に隼人の全身を駆け巡る。
「っ!」
 隼人は耐え切れなくなって、その場に倒れてしまった。すかさず、血相を変えた茜が寄り添ってきた。
「大丈夫! お義兄ちゃん」
「うん?」
 ボーっとする頭で必死に茜の声を聞き取ろうとするが、どうも上手くいかない。疲れてるから駄目みたいだった。他の部員も回りに集まってきて何か言っているが聞き取れない。結果、諦めることにした。無理に聞き取ろうとしなくてもいいだろう。
 それに、幸いなことに、トラックのすぐ外は、木陰になっている所も少なくない。ここでなら大丈夫だろう。
 隼人はぼうっとする頭で何とか言葉を紡ぎだした。
「あかねぇ……」
「なぁに、お義兄ちゃん?」
「もう少し、このままでいいか? 疲れたんだ」
「いいよ」
 茜ははにかむと、ゆっくりと隼人の頭を自分の太ももに乗っけた。いわゆる「膝枕」という奴だ。
 ああ気持ちいい。
 天国みたいだ。この感触。女の子らしい軟らかさに、茜のいい匂いがする。
 しかし、あんなに大健闘して、勝利の余韻に浸ることもなく、それよりも疲れが優先されてしまうなんて、
「珍しいこともあるもんだ」
「ん?」
「なんでもない」
 お風呂にお布団。早く入りたいな。
 そんなことを思いながら隼人は数分の夢の旅に出かけたのであった。

 体育祭も最後の種目が終わり、待望の結果発表がされた。まぁ無論、なんだかんだで、隼人たちが所属する方が負けてしまったのだけれど。
 でも不思議なことに、あれだけ頑張っておいても、負けて悔しいとは思わなかった。あれだけ全力を出せたんだ。これで負けてのならば完全燃焼。諦めも付くというものだった。クラスではこれから、打ち上げなんかをするらしく、隼人も当然誘われたが、それは丁重に断っておいた。今はそれよりも早く寝たい。クラスの奴からは「お前来ないと、茜ちゃんと不知火さんが来ないだろ!」と非難轟々だったが気にしない。てか、俺はただの餌ってことか。
 少しの優越感と、少しの悲壮感が漂う感じで、隼人は着替えを終えると、帰路に着いた。茜は、
「今日はご馳走だから、その買い物行くの。だからお義兄ちゃんは先に帰ってて!」
 との事だったので、さっさと帰ることにしていたのだ。そして、校門を抜けたところで。
「ねえ!」
「うわ!」
 いきなり喋りかけられて、ビックリして後ろを向くと、そこには美鈴が立っていた。
「美鈴……」
 隼人が、美鈴の名前を言うと、美鈴は少しの間、俯いて、そしていきなり、頭を下げた。
「この前に、東のことを馬鹿にしてごめんなさい! 貴方の小説を馬鹿にごめんなさい」
「え?」
 あまりのいきなりさに、隼人は戸惑いを隠せない。だって、いきなり謝られても困るだけだろう。それに、あのプライドの高い美鈴のことだ。この行為自体がどれだけ屈辱を伴うことだろう。そんな真似、させたくなかった。
 やめさせようとした。こんなことはしなくていい。最初からやらせるつもりは無いのに、と。
 隼人は声をかけようとして、失敗する。
 それはなぜかというと、美鈴の足元には、ぽたぽたと水の雫が落ちているからだ。今は当然、雨など降っていない。それなのに、水の雫が落ちてくるということ、それが何を意味するかは単純明快だった。
 美鈴が泣いているのだ。いつだって、人前では強気で、弱みを見せない美鈴が。
 ズキっと隼人は自分の体のどこかが傷ついた音を聞いたような気がした。胸が苦しい。見ていたくない。やめてくれよ、そんなことは。
 ――頼むから……。
 隼人は、ゆっくりと美鈴の肩に手を乗せる。
「もう、いいから。やめてくれこんなこと。見たくないよ。気持ちのいいものじゃない」
 ぐすっと鼻をすする音が聞こえて、美鈴が顔を上げる。酷い顔だった。涙で顔はぐちゃぐちゃになって、何より、絶望感に溢れた表情を見ていたくなかった。あんなに可愛い顔をしているのに、それが意味を成さないほどに、美鈴の顔は酷いものだった。
「もう、いいの? 満足した?」
「いや、だから……」
 囁くほど小さい声で美鈴は言うと、隼人が言い終わらないうちに「それじゃあ」と走り去っていってしまった。
 そんな不完全燃焼みたいな別れ方したら、残るのは、罪悪感と胸の痛みだけじゃないか。
「全く。嫌な気分だな」
 沢山の生徒が下校する中、あの頑張りきって幸せな気分から一転して、落ち込んだ隼人は呟くと、トボトボと帰りだした。

 いつからだろう。
 隼人は落ち込むことがあると、すぐに、この堤防に来ていた。理由は簡単だ。ただ、この堤防から見える、広大な海は隼人の心をいつでも癒してくれたからだ。あまり目立たないこの場所は、隼人のお気に入りスポットの一つでもある。
 今日は久しぶりにこの堤防に出向いた。本当に久しぶりだった。最近は悩み何てほとんど無かったのだから。しかし、またここにはお世話になるだろう。
 隼人は堤防の一番先端の突き出ているところに腰を下ろした。
 目をつむると聞こえてくるのはさざなみの音とカモメの鳴き声だけだ。たまに海岸沿いを走る車のエンジンが響いてくる。すんと鼻腔には潮の香りが入ってきた。新鮮な磯の匂いが隼人の肺一杯に吸入される。とても、落ち着く匂いだった。
 ザザーンと波が寄せては引いて、その音で隼人を和ませていると、不意に後ろに気配を感じて振り返る。そして、目を見開いた。
「美鈴……」
「うん」
 ああ、本当に久しぶりだ。ここに来るのも、美鈴とここで会話をするのも全て。全ては、遠い昔の事だったから。
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