オンライン小説ブログ~青春文芸部~

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



カテゴリ別オンライン小説ランキング 小説・詩ランキング
*Edit TB(-) | CO(-) 

「長編『文芸部ウォーズ』」
第一章 まずは出会いに感謝を。


8

2010.03.29  *Edit 



 さっきの隼人の顔、すごくいい顔してた。
 美鈴は、自分の陣地に戻りながらも、頭の中で、先程の隼人の凛々しい表情を再生しては巻き戻して、再生していた。美鈴が声をかけるまでは、まるで抜け殻のようになっていた隼人の顔。それがあそこまでなるなんて。
 なぜだろう、あの顔を見てるだけで、少し笑顔が零れる。
 ぶっちゃけて言うと、あの勝負の話、あれは美鈴自身、昨日のことに負い目を感じていたから出た勝負と言っていいだろう。あの日の事は、心の底から謝りたいと思っているのだ。確かに、美鈴は隼人が嫌いだ。しかし、嫌いになったのは、何も昔からではない。昔は――昔と言っても、結構近い話で、高校一年の時なのだけれど。その時に初めてあんな奴大嫌いと思っていた。それを今の今まで引きずって、今に至る。しかし、あれは正直頂けない言動だった。
 あの廊下での出来事。
 隼人は隼人なりに、東文芸部を心から大事にしているのだと分かっていた。家族だと言っていた隼人の言葉は嘘偽り無い本当のことだろうとも思っていた。それを貶したのは美鈴である。美鈴は短的に言ってしまえば隼人の家族を愚弄したことになるのだから怒って当然なのだろう。しかし、なぜ美鈴自身、あのような事を口走ったのかがよく分かっていなかった。
 言うつもりは無いといえば嘘となる。しかし、言うつもりは限りなくゼロだった。それを言ってしまう原因が、隼人が心から東文芸部を愛していたことに関係するのだった。美鈴の内から溢れ出して、零れ落ちていく黒い感情。恐らくこれは、ジェラシーという物なんだろうと思う。東文芸部に対しての嫉妬心。今に限らず、今まで東を目の敵にしていたのはもしかしたら、その時からもう、ジェラシーが付いて回っていたのかも知れない。
 だからこその愚弄だったのだが……。
 家に帰って、冷静にあの場面のことを考えていたらどう考えても悪いのは美鈴のほうだし、それにその悪さに関しても、相当性質の悪い、悪口を言っていたことを思い知らされた。でも、謝るわけにはいかない。美鈴はあの、世代を超えていがみ合っていた西文芸部の部長。ここで東文芸部の部員に素直に頭を下げたとなれば、それは美鈴の信用問題にも関わってくることになる。それだけは避けたかった。
 謝りたい。でも、下らないプライドやポスト、俗に言う自尊心と言うものがそれを邪魔するのであった。
 私って、馬鹿よね?
 美鈴は心の中で自分を自嘲気味に笑うと、あることを思いついた。素直に謝れない。なら、ひねくれ者ならひねくれ者らしく、天邪鬼な精神で行けばいいじゃないか。
 美鈴が思いついた事。それは勝負の行く末によって決めるというものだった。いくら敵対していようと、勝負を吹っ掛けて、それに負けたとなればそれはそれで致したか無いはずである。もちろん、負けるつもりは頭から無いつもりだが、もし、仮に負けたとなれば、その時は素直に謝れるだろう、そう美鈴は考えていた。
 そして今に至る訳である。
「ねぇ、美鈴」
「何よ?」
 美鈴が、回想に耽っていると、不意に隣に座っていた西文芸部副部長の新巻真琴が話しかけてきた。美鈴が見ると、真琴はジト目で美鈴を見つめていた。
「あんたまた勝負しかけたんだって?」
 あまりの情報の速さに美鈴は驚く。勝負を仕掛けてきたのは本当にさっきだからだ。時間にして十分にも満たない。その間に勝負の情報が漏洩するとは。この世はなんて末恐ろしいのだろう。
「何変な顔してるの? もし、どうしてそれを! とか思ってるんだったら、それは、先程その現場に一緒に居合わせていた後輩ちゃんに聞いたからよ」
 余程変な顔をしていたのだろう。真琴は目をそらして笑いをこらえている。それを考えると急に恥ずかしくなって、美鈴は顔を俯けた。とりあえず情報漏えいの事については解決したから安心である。
 笑いが収まったのか、真琴は話し始めた。
「にしてもさ、よく飽きないね」
「飽きない?」
「そうよぉ。毎回毎回毎回さ、何でもっと仲良くなれないかね? 本当にいつも疑問なんだよね、それ」
「それは……」
 美鈴は答えに窮する。ジェラシーよ、なんて素直に言えるわけもないし、それ以外だともう、昔からそういう決まりなのよ! としか言う言葉が無い。しかし、歴代の先輩がそうだったからやったなんて、恥ずかしすぎるではないか。そこまで自分を持っていない美鈴ではない。
「まぁ昔のしがらみはあると思うのよね。でもさ、それでも私は反対だよ」
 真琴は、答えない美鈴に痺れを切らしたのか、また話し始めた。
「ああいうのって、ある程度は刺激も必要だと思う。でも、あんた達のはやりすぎ。もうなんて言うのかな、喧嘩しに来てる、みたいな。あんたら一体何をしたいの? って思うわけ。そんな喧嘩をするくらいなら普通に協力して、いい作品を書いていこうよって思うのよね。切磋琢磨して、それで程よく刺激しながら書いていけば、多分飛躍的に私達の高校の文芸部のレベルはアップすると思ってるもの」
 真琴は西文芸部では少数派の“協力派”の人間だ。東も西も手を取って助け合おうという派閥である。先に言ったことは、真琴の口癖でもあった。
「確かに、そうね」
「なら……」
「でも、私達はその下らない自尊心に着いて行かなきゃならない。惨めでも、間抜けでも、今は。いつかはこんなしがらみ解いてみせるわ。でも、今は駄目なのよ」
 美鈴が思っていることを正直に話すと、真琴は一回ため息をついた。これは真琴の癖である。もう話は終わり、と言う時に、大きなため息をつくのだ。
「はぁあ。うん。分かったわよ。部長のことを信じるわ」
「ありがと」
 真琴が空を見て、ぼうっとして言う。美鈴はそれに笑顔で答えたのだった。
 真琴がまたボソッと呟いた。
「本当に今日は、いい天気だわ」
 パパパーン。
 体育祭始まりの空砲が鳴らされた。
 ついに体育祭の幕開けである。美鈴は立ち上がると、真琴に手を差し出した。真琴は黙ってそれを握り返すと立ち上がる。
「遂に始まったわ。頑張りましょうね」
「そうね。程ほどにね」
 そう言い合うと、二人は校庭の全校生徒が集まっている集団の列へと向かっていく。元気良く大地を踏みしめながら歩いている美鈴の顔を見て、真琴は、ハハハと小さく笑うと呟いた。
「こんなに天気がいいのに、何でそこまでやる気かね?」
 真琴には今回の勝負、どちらが勝つのかは知らない。でも、これで少しでも二つの部活が仲良くなれば、と思っていた。
 それがどうなるかは、勝負次第なのだが。気楽にそれを眺めていこうと心に決めた真琴であった。
スポンサーサイト



カテゴリ別オンライン小説ランキング 小説・詩ランキング
*Edit TB(0) | CO(0)
Tag List  [ * ]   [ *長編 ] 

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

MENU

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。