オンライン小説ブログ~青春文芸部~

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



カテゴリ別オンライン小説ランキング 小説・詩ランキング
*Edit TB(-) | CO(-) 

「お題小説」
『春』


『春』

2010.03.10  *Edit 

 風が吹いた。
 春の訪れを運ぶ風だ。
 皆この季節を始まりの季節と言う。それは真理なのだろうか。僕にはまた一周してしまった様にしか思えなかった。何度も何度も同じ時間を回っているだけ。
 それはまるでメビウスの輪のように。終わりの無い輪かの中で。
 あの人が死んでしまって以来、僕の時間は無限にループしているのだ。変わりもしないけど終わりもしない。ただ同じように毎日を過ごし、同じように時間が過ぎて太陽が昇って、夜が更けて。
気付けばまた新緑がまぶしく、生命は春を世に告げようと躍起になっているのが分かった。桜舞い、風は冬の突き刺すような刃の風からふわりと包み込む衣のような風に変わる。
 またゼロに戻った。そう思う。
 もしこの風景の中に君がいたならば、僕は春を“始まりの季節”と形容できただろうか。この桜を見て陰鬱になるのではなく、笑顔で片手にビールなんか持って、ピンクの花弁が芸者さんの変わりに彩を添える中でわいわいとはしゃげただろうか。
 でも、現実を見れば違うのだ。どんなに空想しても、僕の目の前には彼女はいない。確かに、元から長い命ではなかった。医者は言っていた「この春が終わる頃にはもう……」と。
 彼女はそれを受け止めていたし、だからこそ他の誰よりも輝いていた。だからこそ自分の最後に見る季節は春だからと桜を見たいと言った。
 そして彼女はその桜を見に行った帰りに、飲酒運転の車に轢かれて死んだ。
 僕の目の前で死んだ。冷たいコンクリートを伝う彼女の鮮血をまだ覚えている。徐々に冷たくなっていく彼女の体温も、開いたまま閉じない彼女の瞳孔も。
 僕はそれを黙って見ているしかなくて。涙も出ない位に絶望して。それでも死ななかったのは彼女が病気だったから、人よりも命の重さは知っているつもりだったからだ。それに、彼女が見たがっていた景色をせめて僕の目に焼き付けていてあげたかったからだ。
 それも今日で終わり。
 今日は彼女の一周忌。今日ならば、彼女も許してくれるだろうと思う。
 僕は麻のロープを木にかける。そしてそれを自身の首に巻きつけた。
 一言言わせて欲しい。僕は死ぬんじゃない。ただ、彼女の傍に行きたいだけだから。こんなのって、愛おしい彼女の自宅に行くのと同じだと思わないか。
 ――風が吹く。
 春を告げる、やさしく温かい緑を一杯染み込ませた風を感じながら。
 ピンクの花弁が演舞を激しく舞う中で、ヤマザクラの太い木の一本が、ギシギシと揺れていた。
スポンサーサイト



カテゴリ別オンライン小説ランキング 小説・詩ランキング
*Edit TB(0) | CO(0)
Tag List  [ *お題 ] 

~ Comment ~

 管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

MENU

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。